クラゲに刺されない?パラオにある神秘の湖「ジェリーフィッシュレイクとは?」

2014年11月10日 投稿
2019年10月01日 更新

ジェリーフィッシュレイク[esormikim][表示][改変禁止]

神秘の湖

日本から遠い南、赤道付近にある小さな島々からなるパラオ共和国。200~300もの無人島からなるロックアイランドの島の一つ、マカラカル島にはいくつかの湖があるが、そのなかには神秘的な湖が存在する。

ジェリーフィッシュレイク(Jellyfish Lake)と呼ばれているこの湖は、約1万2,000年前に形成されたと考えられており、面積はおよそ57,000㎡。この湖の水は海水からなる塩湖で、3つのトンネルで海とつながっている。

ジェリーフィッシュレイク[LuxTonnerre][表示]

ゴールデンジェリーフィッシュ

このジェリーフィッシュレイクには数種類の魚とミズクラゲの一種、そしてタコクラゲの亜種が生息しているが、このタコクラゲは、外海からほとんど隔絶されたジェリーフィッシュの特殊な環境により独自に進化している。

タコクラゲはその名の示す通り、タコのように8本の口腕を持つ水玉模様のクラゲだ。日本でも関東よりも南の海に、おもに夏頃に見ることができる。ジェリーフィッシュレイクには、このタコクラゲの亜種(ゴールデンジェリーフィッシュと呼ばれている)が生息しており、この島の近海に住むタコクラゲとは異なる特徴を持っている。

c
photo by Kuruman
ジェリーフィッシュレイクに生息するタコクラゲ(ゴールデンジェリーフィッシュ)。

a
photo by Kimon Berlin
通常のタコクラゲ。

タコクラゲの水玉模様

タコクラゲでは、白い水玉模様の斑紋が見られる。これは貝殻やサンゴの骨格、卵のカラの成分である炭酸カルシウムであることが明らかになっており、一説によると傘の強度を高めるはたらきをしているという。しかし、ジェリーフィッシュレイクに生息するタコクラゲでは、この特徴的な白い水玉模様の斑紋が消失しているのだ。外敵がいなくなったために、傘の強度を保つ必要が無くなったためなのか——通常のタコクラゲになぜ炭酸カルシウムが蓄積されているのか明らかになっていない以上、ジェリーフィッシュレイクに生息するタコクラゲの斑紋が消失した理由も詳しくは明らかになっていない。

さらに、通常のタコクラゲと比べて、ジェリーフィッシュレイクに生息するタコクラゲでは口腕、厳密には口腕の先から延びる付属器と呼ばれる部分が短いのだ。これはもしかしたら、外敵のいない環境で活発に遊泳する必要がなくなったためかもしれない。
そして何より、最も大きな特徴は体色だろう。通常のタコクラゲと比べて、ジェリーフィッシュレイクのタコクラゲは濃い褐色になっているのだ。実は、この体色の違いには大きな秘密が隠されている。

ジェリーフィッシュレイクのタコクラゲ
Floating Umbrella flickr photo by ^riza^ shared under a Creative Commons (BY) license

共生する褐虫藻(かっちゅうそう)

通常のタコクラゲは、薄い褐色となっている。これはタコクラゲそのものの色ではなく、褐色の褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類が原因だ。褐虫藻とは渦鞭毛藻類(うずべんもうそうるい)の単細胞藻類の総称で、いくつかの種類が知られている。これらがクラゲやイソギンチャク、サンゴなどの細胞内で共生することによって生活しているのだ。特に造礁サンゴとの共生関係は代表的な一例であり、しばしば問題として挙げられるサンゴの白化現象は、海水温の上昇によりこの褐虫藻が失われてしまうために起きる。

タコクラゲが褐色であるのは、この褐虫藻がクラゲの細胞内に共生しているからで、タコクラゲが代謝活動によって生成した二酸化炭素やアンモニアなどを、褐虫藻が光合成などに利用して養分を得るとともに、過剰な養分や酸素を宿主であるタコクラゲへと供給するのだ。
ジェリーフィッシュレイクに生息するタコクラゲは、通常のタコクラゲと比較して非常に色が濃いということが分かる。これは、非常に多くの褐虫藻を体内で共生させているからだ。これはもしかしたら、仲間同士でエサを奪い合わないために進化した結果なのかもしれない。
さらに、外敵がおらず、ましてやエサを取る必要のないこのタコクラゲには、ある驚くべき変化が起きている。

クラゲに刺されない?

通常、多くのクラゲは刺胞(しほう)と呼ばれる毒針を備えている。刺胞細胞と呼ばれる細胞1つのなかに1個の針があり、物理的刺激あるいは化学的刺激を受けることによってこの針が射出され、毒液を注入するのだ。
タコクラゲもこの刺胞は持っているが、刺されると「人によっては痛みを感じる程度」で、毒性はとても弱い。しかし、ジェリーフィッシュレイクに生息しているクラゲでは、これがほぼ無毒化しているという。毒または刺胞を作り出すためには相応のエネルギーが必要になるが、身を守る必要のないジェリーフィッシュレイクのタコクラゲにとっては不要なことだ。どうやら、この刺胞は長い年月をかけて退化してしまったらしい。

ゴールデンジェリーフィッシュ
Xray Jelly Palau flickr photo by amanderson2 shared under a Creative Commons (BY) license

ジェリーフィッシュレイクでのダイビング

このように、ジェリーフィッシュレイクのタコクラゲはほとんど無害であるために、観光客はこの湖でタコクラゲと一緒に泳ぐことができるのだ。湖に入るためには、コロール州政府が発行する特別な許可証が必要で、申請料は1人あたり100$。6歳未満の場合は申請は不要であるという。有効期限は10日間だ。

このジェリーフィッシュレイクで泳ぐためには、いくつか注意点がある。シュノーケルを身に着けたシュノーケリングは大丈夫だが、タンクを使用して長時間潜水するスキューバダイビングは禁止されているのだ。スキューバダイビングで発生する気泡は、クラゲたちにとっては脅威そのものである。クラゲを飼育している人はよくご存じかもしれないが、クラゲは非常に繊細な生き物であり、もしクラゲの傘に気泡が入ってしまうと、そのうち穴が開いて傘が破けてしまうことがあるのだ。

また、ジェリーフィッシュレイクでは水深15m以深での遊泳は禁止されている。これよりも深い場所は無酸素層であり、硫化水素などを多く含むダイバーにとって危険な領域であるからだ。また、ダイビングでは深く潜るほど「窒素酔い」と呼ばれる危険な酩酊状態に陥ることがあり、判断力が低下することで危険な行動を取ることがある。これは15mよりも浅い水深でも起きることがあるので、ジェリーフィッシュレイクにおいて深く潜ろうとすることは避けた方が良いだろう。

クラゲの激減

日本でも様々なツアーが企画されているジェリーフィッシュレイクであるが、現地の情報を事前に知ることは必要不可欠だろう。というのも、近年ではジェリーフィッシュレイクに生息するクラゲの個体数が大きく変動しているからだ。

1998年ではジェリーフィッシュレイクに生息するクラゲの個体数が急激に減少し、12月頃にはクラゲの成体を確認することができなかったという。この一件以来、個体数は回復しつつあったが、2016年ではパラオが深刻な干ばつに見舞われ、推計800万匹以上であった個体数が60万匹にまで減少したという。
時期や状況によっては、せっかくジェリーフィッシュレイクを訪れたのに、クラゲを見ることができない、あるいは数が非常に少なかったという状況になってしまいかねないのだ。訪れる際には、事前に現地の情報を調べておこう。

神秘的な、パラオ共和国のジェリーフィッシュレイク。クラゲ好きなら一度は訪れてみたいまさに”聖地”だろう。

あなたにおすすめの記事

世界で初めて淡水クラゲが発見されたのは日本だった?日本で2度だけしか確認されていないクラゲ
「目玉焼き」が海を漂う、日本でも見られるクラゲ
クラゲの刺胞を”奪う”、アオミノウミウシ
加齢臭と同じ匂いで敵から身を守る?カミクラゲ

生命科学カテゴリの最新記事