経口摂取によって腸内細菌の多様性は増加する、東京医科歯科大学の研究

口から栄養を摂取できなくなった場合、胃や腸などから栄養を送る経管栄養法や、鼻からチューブを挿入して栄養を送る経鼻栄養法、静脈から栄養を送る静脈栄養法などがある。しかし、これらの方法で必要な栄養を摂取できていても、やがて経口栄養、つまり口で食べるためのリハビリを行うことが望ましい。

今回、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の研究チームは腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)の観点から、経口栄養が重要であることを明らかにした。この研究成果は国際科学誌『Frontiers in Cellular and Infection Microbiology』に2019年12月20日付けでオンライン版に掲載されている。

私たちの体には数百兆個もの細菌が共生しており、なんと体重のうち1~2kgを占める。そのうち90%は消化管に生息しており、特に腸内では数万種類もの細菌同士が互いに勢力を保ちながら、一種の生態系を形成しているのだ。これを腸内細菌叢という。

当然ながら口と腸は繋がっており、食べ物や唾液、そして口腔内の細菌は腸へと流れ込んでくる。研究チームは、口から食べ物を食べる、つまり経口栄養を行うことによって腸内細菌叢に大きな変化をもたらしている可能性があると考え、検証を行った。

研究チームは、脳卒中により経管栄養になった患者のうち、口から栄養を摂取する摂食嚥下訓練を行った8名を対象に腸内細菌の変化を観察した。患者には経管栄養時と経口栄養時でそれぞれ唾液と便を採取し、その前後における細菌の変化を、遺伝子配列を高速で読み出す「次世代シークエンサー」を使って解析した。なお、経管栄養と経口栄養でのカロリーに変化はないものとしている。

その結果、経口栄養に移行すると口腔内と腸内の両方で細菌叢の多様性が増加し、組成が大きく変化していることが明らかになった。細菌の種類が多くなったことにより、細菌同士のネットワークも飛躍的に増加し、経管栄養でしかみられないような代謝経路も存在することが確認されたという。

腸内細菌叢は近年、腸内の活動だけではなく、肥満や睡眠などの生活習慣に影響をもたらしたり、うつ病や糖尿病などの一部の疾患、さらにはその人の性格にまで影響を及ぼしている可能性があることが明らかになってきた。もしかしたら、経口栄養ができなくなって経管栄養に移行したために、腸内細菌叢の多様性が失われることで、思いもよらないような影響が生じている可能性もある。

経口栄養が望まれるのは、もちろん患者の健康のためだけではない。特に食欲が低下している患者にとって、口でしっかり食べれるようになるためのリハビリは大変かもしれないが、食べ物の味を楽しむことが、患者にって何よりも重要なことだろう。