健康なサンゴ礁の「音」で魚を呼び戻し、生態系を取り戻す

2019年12月08日


Amazing Great Barrier Reef flickr photo by Studio Sarah Lou shared under a Creative Commons (BY) license

オーストラリアの北東部は世界最大のサンゴ礁地帯となっており、グレートバリアリーフと呼ばれている。しかし、近年では気候変動などの影響によりサンゴの白化現象が深刻化しており、同時にサンゴ礁に生息する多くの生物たちも姿を消し、サンゴ礁を中心とする生態系が急速に失われつつある。そこで、オーストラリアとイギリスの共同研究チームは”ある方法”を使って、いなくなってしまった魚を呼び戻そうと考えた。

サンゴの白化現象

サンゴとはそもそも、イソギンチャクのような刺胞動物の仲間のうち、石灰質の固い骨格を形成するものだ。一見すると植物のように思われるが、立派な”動物”ということになる。しかし、体内には褐虫藻(かっちゅうそう)と呼ばれる藻類を共生させており、この褐虫藻が光合成を行うのでサンゴは実質的に植物のようなはたらきをしている。サンゴが集まったサンゴ礁は、いわば海のなかにある”森”であり、多様な生物が住み着くようになる。

しかし、気候変動などによって海水温が上昇すると、共生している褐虫藻がサンゴから逃げて、サンゴは白くなってしまう。これがサンゴの白化現象だ。褐虫藻がいなくなるとサンゴは栄養を得ることができなくなって死滅し、やがて荒廃したサンゴの”森”からは生物がいなくなってしまう。
サンゴ礁に生息する魚類は、実に3分の1にも及ぶといわれている。サンゴ礁の壊滅は、サンゴがなくなってしまうだけでなく生態系の破壊にもつながってしまうのだ。


Great Barrier Reef 2010_credit: Kyle Taylor flickr photo by Beyond Coal and Gas shared under a Creative Commons (BY) license

健康なサンゴ礁の”音”で生物を呼び込む

そこで、オーストラリアのブリストル大学とエクセター大学、オーストラリアのジェームズクック大学とオーストラリア海洋科学研究所からなる合同研究チームは、ある作戦を試みた。様々な生物たちが騒がしく暮らしている健康なサンゴ礁の音を、サンゴ礁が死滅した場所で流して、生物たちを呼び戻すというのだ。

健康なサンゴ礁には様々な生物が暮らしており、多くの「音」を発生させている。例えば、ウニがサンゴを歩き回る音や、エビやカニなどの甲殻類がはさみを鳴らす音、魚たちが泳ぎ回って浮き袋を鳴らす音だ。森に例えていえば、小鳥のさえずりや川のせせらぎ、風で木の葉が騒ぎ立て、動物たちが鳴き、走り回る――といった音だ。私たちがこのような音を”心地よい”と感じるように、海に住む生物たちも、この”騒がしさ”や”活気”が定住するひとつの基準になっているようだ。

研究チームらは、サンゴが健康な海域で録音した音を、サンゴが死滅してしまった海域で水中スピーカーを使い、6週間に渡って流し続けた。その結果、その海域に集まる魚は以前の倍になり、確認された生物の種類も50%増加したという。どうやら研究者たちの狙い通り、生物たちはここが住み良い環境であることを”音”によって判断し、定住しはじめたようだ。

再生へのプロセス

サンゴを隠れ家にするような小さな魚が住み着くようになると、それらの魚を狙うより大きな魚や、シャコやカニなどの甲殻類、タコなどの軟体動物、その他死骸を食べる数々の生物が集まるようになる。サンゴ礁に生息する生物の一部は、産卵期になると子どもの生育に適したプランクトンの群れがある沖へと移動するが、一説によると生まれた子どもはサンゴ礁の”音”を頼りにして再びサンゴ礁へと戻ってくるという。こうして、サンゴ礁における営みは次世代へと続いていくのだ。


IMG_2344 flickr photo by taso.viglas shared under a Creative Commons (BY) license
小さな魚が集まると、やがて大きな魚たちが集まるようになる。

しかし、生物が増えたとしても白化してしまったサンゴが戻ることはない。サンゴが”生き返る”ための好循環をもたらす可能性はあるが、あくまで見かけの回復に過ぎないのだ。音がなくなってしまえば、再び生物たちはここから居なくなってしまうだろう。
だが、例えば移植した新しいサンゴ礁に”音”を流して生態系を引き込んだり、死んだサンゴ礁から生物たちが居なくなることを食い止めることは可能だ。この技術はサンゴの保護活動と併用することで、サンゴ礁を取り巻く多様な生態系を取り戻すきっかけを作り出す有効な手段となるだろう。

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