バイオリン演奏しながら脳腫瘍切除、なぜ演奏をする必要があったのか?

バイオリン演奏をしながら脳腫瘍切除

今年1月、イギリス・ロンドンのキングズ・カレッジ病院(King’s College Hospital)で、バイオリン奏者に演奏させながら脳腫瘍を切除するという異例の手術が行われた。

今回手術を行ったのは、イングランド南部にあるワイト島の”ワイト交響楽団”に所属するバイオリニスト、ダグマー・ターナー(Dagmar Turner)氏。53歳になる彼女は2013年に行われたコンサート中に発作を起こし、その後の診断によって脳に腫瘍があることが分かったという。

しかし厄介なことに、腫瘍がある脳の領域は、バイオリンの演奏に必要不可欠な左手の運動を司る部位に近いことが分かった。このままでは、手術によって今後の演奏活動に支障をきたす恐れがあったという。

そこで担当医師らは、手術によって脳の機能が損なわれていないことを確認するため、バイオリンを演奏させながら脳腫瘍を切除するという異例の手術に踏み切ったのだ。

なぜバイオリンの演奏が必要だったのか?

今回の手術は「覚醒下手術」の一例だ。これは手術によって脳機能が障害されていないことを確認するために、起きている(覚醒)状態の患者にさまざまな課題を遂行させながら脳腫瘍の摘出などを行う手術方法で、通常は簡単や計算問題や記憶問題、手を握ったり足を動かすといったタスクを行わせて、脳機能に影響が無いかを確認する。

一見するとただのパフォーマンスのように思われる今回の手術であるが、楽器の演奏は脳機能を確認するには非常に優れた課題であるといえる。バイオリンの演奏に必要なのは単純に聴覚や手の運動といった脳領域だけではない。感情を表現したり、楽譜やイメージを思い浮かべたり、リズムを取るためには幅広い脳の領域が連動・統合する複雑な処理が行われる。
今回の場合、彼女がバイオリニストということで、さまざまな脳機能を確認するためにバイオリンの演奏が最も適した課題として選ばれたのだ。

このような事例は今回が初めてではない

覚醒下手術でバイオリンを演奏するのは、実は今回が初めてではない。2014年にはミネソタ管弦楽団に所属するバイオリニストが同様に、覚醒下手術でバイオリンを演奏しながら神経疾患の手術を行っている。

また、2015年にはブラジルで銀行員の男性がギターを弾きながらビートルズなどの6曲を歌い、スロベニアではオペラ歌手の男性がシューベルト『冬の旅』第一部「おやすみ」を歌ったという。近年では2018年にアメリカで19歳の女性シンガーが、歌をうたいながら脳腫瘍を摘出した。

▽オペラ歌手アンブロシュ氏の手術の様子

今回、手術を行ったターナー氏は今年1月31日に手術を行い、2月には退院したようだ。バイオリン演奏に支障がないことは手術中に”確認済み”であるため、今後の活動において不安は無いようだ。彼女は一刻も早く楽団に復帰したいと語っているという。