日本最古、『日本書紀』謎の天文記録はオーロラであると結論

2020年3月29日

Aurora May 11th - 12th 509
Aurora May 11th – 12th 509 flickr photo by Rocky Raybell shared under a Creative Commons (BY) license

今年2020年は、『日本書紀』が書かれてからちょうど1300年を迎える。奈良時代に書かれたこの歴史には、620年に起きたとされる日本最古のある”謎の天文記録”が書かれているという――

「十二月の庚寅の朔に、天に赤気有り。長さ一丈余なり。 形雉尾に似れり」

「赤気(せっき)」と書かれたこの天文現象はオーロラと解釈されることが多く、日本でオーロラが観測された最古の例として挙げられることが多い。エピネシスの過去の記事においても、古くはオーロラが”赤気(せっき)”と呼ばれており、それが日本書紀に書かれていたと紹介しているが、実はこの天文記録がオーロラを指しているのか、あるいは彗星を指しているのか、まだはっきりとした決着はついていなかった。

このような古い天文記録は、一般に中国の昔の天文記録と照らし合わせて、どのような現象が起きていたのか特定する方法が一般的だ。しかし、中国の文献では同じ頃に似たような記録は見つからなかったという。そこで、国立極地研究所と国文学研究資料館の研究グループは、この記述について調査を行った。

問題となっているのは、日本書紀に書かれている「形雉尾に似れり」という一文だ。つまり、その天文現象は「鳥の一種である雉(キジ)の尾羽に形が似ていた」ということだが、雉の尾羽は基本的に真っすぐで長い。これはオーロラというよりも彗星を指しているように思える。

close up of a male Common Pheasant
close up of a male Common Pheasant flickr photo by Steve Slater (used to be Wildlife Encounters) shared under a Creative Commons (BY) license

また、「雉」ではなく「碓(うす)」と書かれている写本も多く見られており、この部分はいまいち判然としない。しかしながら、もし碓だとするならば、もはやオーロラではないことは明らかだ。

しかし、もし彗星であるとするならば、それは赤色とは程遠い色だっただろう。少なくとも「赤気」と書かれることはなかったはずだ。一部の人にとっては信じられないかもしれないが、”赤い彗星”が見られることはまず無い。それに、日本書紀では「箒星(ほうきぼし)」と区別して書かれていることも疑問が残る。

目撃されたのは扇形のオーロラか

研究チームらは、当時の日本の磁気緯度が現在よりも10度ほど高かったことから、大規模な磁気嵐が起きれば日本でもオーロラが見えた可能性があったと断定した。この時のオーロラはどのように見えたのだろうか――

1770年9月に京都で目撃され、江戸時代の古典籍『星解』に描かれたオーロラの形はなんと扇形であったという。また、1872年3月にフランスで目撃され、天文学者であり画家でもあるトルーヴェロが描いたオーロラの形も扇形であった。日本のような中緯度で発生するオーロラは赤く、北の空で磁力線に沿って細いオーロラの筋が等間隔に数多く出現し、扇形に見えるようだ。


エティエンヌ・レオポール・トルーヴェロ作『Aurora Borealis』

研究チームらは、当時の人々がこの”扇形のオーロラ”を目撃し、これを雉が尾羽を広げた様子に見えたのではないかと結論付けた。雉は求愛のためのディスプレイ行動や飛ぶときなどに、普段は真っすぐな尾を扇状に広げる。これなら、「形雉尾に似れり」という一文にも納得できそうだ。

Ring-necked pheasant flying Lacreek National Wildlife Refuge
Ring-necked pheasant flying Lacreek National Wildlife Refuge flickr photo by USFWS Mountain Prairie shared under a Creative Commons (BY) license

雉の尾羽は美しいが、滅多に開くことはない。形だけを記すのなら他にも分かりやすい例が数多くあっただろう。しかし、美しい雉の尾羽に例えることによって、昔の人々はオーロラの美しさまでも、1300年後の私たちに伝えることができたのだ。自然に親しみ、鋭く観察して、それを表現する――昔の人々の美しい感性には、頭が下がる。

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