入れ歯をつけたまま手術を受けた男性に起きた悲劇、短期間で4回の手術

ちょっとした「うっかり」から、短期間に4回も手術を受けることになってしまった男性の症例が『BMJ Case Reports』に掲載された。


Dental Technician Finishing Digitally Manufactured Dentures Printed with a Formlabs Form 2 SLA 3D Printer flickr photo by Formlabs Inc. shared under a Creative Commons (BY) license

イギリスに住んでいる72歳のジャック氏はある日、腹部にできた良性のしこりを切除するために全身麻酔手術を受けた。このとき、ジャック氏は前歯3本の入れ歯をつけていたが、手術前に入れ歯を付けていることを医師に伝え忘れてしまっていた。手術後、ジャック氏は入れ歯を”無くして”いることに気付いたという。

手術を施した腹部は快方に向かっていたが、その後、ジャック氏には様々な異変が現れた。咳をするたびに喀血するようになり、食べ物を飲み込もうとするたびに喉に強い痛みが走ったという。ジャック氏は手術から6日後、再び病院へと足を運んだ。

気道感染?

医師は6日前の手術で気管内チューブを挿管した際に、何らかの気道感染が起きたものと判断し、喀血はジャック氏が過去に患っていた肺疾患が原因によるものと考えた。診断後、ジャック氏は病院からうがい薬や抗生物質,ステロイドなどを貰い、そのまま帰宅。しかし、病院で処方された薬を服用しても症状は改善されず、それどころか、ジャック氏は薬さえも飲み込めなくなっていたのだ。

誤嚥性肺炎?

2日後に再び病院で診察を受けると、医師は胸部のレントゲン画像から誤嚥性(ごえんせい)肺炎を疑ったという。誤嚥性肺炎は、食べ物などが誤って気管に入り込んでしまった場合に、肺に侵入した細菌が引き起こす肺炎で、飲み込む力が弱くなった高齢者に多い。特にジャック氏のように70歳以上の人が発症した肺炎の80%は誤嚥性肺炎が原因であるとされている。
医師がジャックさんを入院させ、詳しく検査するために鼻腔鏡検査を行った結果、なんと大きな半円形の物体が、ジャックさんの声帯に覆いかぶさっていることが分かったのだ。

この物体こそ、手術後に無くしたと思っていたあの入れ歯だったのだ。入れ歯はその後、手術によって摘出され、ジャック氏は6日後に退院した。

入れ歯を摘出した後も、この騒動は終わりを見せなかった。退院後、1週間たっても喀血が止まらなかったジャック氏が再び病院を訪れると、入れ歯による傷からできた肉芽腫(にくげしゅ)が見つかり、除去するための手術を受けることになった。除去した部分からは大出血が起き、手術は輸血が必要になるほどの大掛かりなものになったという。

さらに、すべてが終わったかに思えた9日後、肉芽腫のあった場所に動脈の裂傷が見つかった。ジャック氏は4回目の手術を行い、この動脈の傷を縫合したという。現在、ジャック氏に出血はみられず、体調は快方に向かっているという――入れ歯を外すという「うっかり」したミスから、わずかな期間で4回の手術を受けることになったのだ。

入れ歯の誤飲

入れ歯を誤飲する例は珍しい出来事ではないようだ。イギリスの医学誌『British Medical Journal』によると、イギリスでは15年間でなんと83件もの入れ歯の誤飲が報告されているという。日本でも2019年3月に81歳の女性が入れ歯を誤飲するという事故が起きている。

女性患者が発熱を理由に病院を訪れ、胸部レントゲン検査などを行って帰宅した後、女性患者の家族がレントゲン画像から無くしていた入れ歯を発見。すぐに病院に緊急搬送されて、胃から入れ歯が摘出されたという。

ジャック氏のような例は極めて珍しいが、高齢者では入れ歯の誤飲などがあっても気付きにくく、不調が現れても別な病気であると思われやすい。また、主治医と患者との間に細かい説明や質問などのコミュニケーションが取れていれば、今回のような事故は防げていたかもしれない。

例えば、手術では入れ歯と同様にコンタクトレンズなどは外しておく必要がある。また、患者の顔色などを確認するために化粧などはしないか、落としておく必要があるのだ。手術前の話し合いで、少しでも疑問に思ったことは何でも質問するべきだろう。医師とのコミュニケーションも、大切な治療の一環である。