クマムシが月面でばらまかれた可能性、月面で生き残れるのか?

”地球最強の生物”とも呼ばれることがあるクマムシが、月面にばらまかれた可能性があるという。クマムシの驚異的な生命力を考慮すると、月面においても生存している可能性があるという――

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Schokraie E, Warnken U, Hotz-Wagenblatt A, Grohme MA, Hengherr S, et al. (2012) [CC BY 2.5via Wiki Commons

クマムシは緩歩動物門(かんぽどうぶつ)に属する動物の総称で、英語ではウォーターベアなどと呼ばれている。大きさは0.1mmから1.5mm程度と小さく、身近にあるコケや土の中、果ては南極や深海などといった世界中のあらゆる場所に生息している。
驚くべきはその生命力だ。クマムシは、過酷な環境では乾眠(かんみん)と呼ばれる特殊な仮死状態へと移行し、この状態では絶対零度にも近いマイナス272度という低温や300気圧相当の圧力、真空状態でも生き延びられる。代謝速度は1万分の1にもなるため、食べ物がなくても最大30年間も生存した記録があるというのだから驚きだ。

このクマムシが月面にばらまかれた可能性があると、民間非営利団体であるアーク・ミッション財団が2019年7月6日に発表した。2019年4月に、クマムシを入れた装置が搭載されていたイスラエルの探査機「ベレシート」が月面着陸に失敗し、墜落していたのだ。
アーク・ミッション財団は、人類や地球のあらゆる知識をデータベース化して、それを太陽系に拡散させることを目的として活動しており、人類が宇宙進出していくなかで、未来の人類に向けた”銀河系百科事典”を作ることが目的であるという。

その活動の一環で、月面には”ルナー・ライブラリー”という装置が送り込まれることとなった。このDVDのような装置では、顕微鏡で見ることができる3,000万ページ分の人類史や人間のDNAなどが記録されており、そのなかには樹脂製の人工琥珀のなかに閉じ込められた、乾眠状態となっている数千匹ものクマムシも入っているという。アーク・ミッション財団の設立者によると、探査機「ベレシート」の墜落直前の軌道や装置の構造などを考えるとクマムシが生存している可能性は非常に高いという。

クマムシが生存していくことは可能なのか?

実は、クマムシは宇宙空間でも生存できることが既に実証されている。2007年9月に欧州宇宙機関によって打ち上げられた宇宙実験衛星「FOTON-M3」にはクマムシが格納されており、地球から270km離れた軌道上で、乾眠状態のクマムシが入った容器が宇宙空間で開けられたのだ。
一部のクマムシでは遮られていない太陽光を直接浴びたが、宇宙線だけを浴びたクマムシは問題なく繁殖活動などが行えるほど”健康”で、強力な太陽光を浴びたクマムシでさえ、地上では一部が乾眠状態から蘇生できたという。

クマムシは、57万レントゲンという放射線の照射にも耐えるほどの高い放射線耐性を持っているうえに、真空状態でも生き延びることができる。月面という地上とは全く異なる過酷な環境であっても、生存していく可能性は十分にあるのだ。

NASAの宇宙生物学者によると、月面に衝突したときの状態に加え、クマムシが高温にさらされているかどうかが鍵であるという。クマムシは150度の高温にも耐えることが明らかになっているが、現在クマムシがどのような状態であるかは分かっていない。

さて、この生存したクマムシが月面で繁殖する可能性は――?

研究者らは、可能性は極めて低いとみている。確かに、クマムシは単為生殖を行うことができるため、たとえ仲間と出会えなくても繁殖することは可能だが、仮に人工琥珀から解放されたとしても、乾眠状態から蘇生するためには水分が必要だ。月面でクマムシに、十分な量の水分が与えられる可能性は低いだろう。

さらに、繁殖するためには余剰な栄養分なども必要になる。つまり、エサが十分になければ繁殖するためのエネルギーも確保することはできないのだ。
現在、探査機「ベレシート」がどのような状態なのかは分からないが、今後の月面活動によってクマムシが回収されたとき、再びクマムシが蘇生することはできるのだろうか――クマムシの驚異的な生命力がまたしても1つ、実証されるかもしれない。