「寿命」ではなく「健康寿命」に影響を与える遺伝子を線虫から特定

2019年7月18日

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CC 2.5 wiki commons

長く生きられることだけが良いこととは限らない。 厚生労働省が2016年に発表した資料によると男性の平均寿命は約81歳、女性では約87歳であるが、支援・介護が必要とされるいわば「健康寿命」は男性では約72歳、女性では約74歳と大きな開きがある。
つまり、統計的に男性では約9年、女性では約13年もの要支援・要介護状態を送ることになるのだ。寿命と健康寿命の差が大きくなるほど、患者の家族は身体的にも精神的にも、そして経済的にも負担を強いることとなるため、超高齢化社会の日本では健康寿命の”延命”が急務となっている。
この健康寿命は、これまで患者の運動や食事などの生活習慣が大きな影響を与えていると考えられてきたが、近年では遺伝学的なアプローチから研究が進められている。

沖縄科学技術大学院大学の研究者らは、線虫が持つ「elpc-2」という遺伝子が健康寿命に重要な役割を果たしていることを発見した。この遺伝子はヒトでも保存されている遺伝子で、私たちの健康寿命にも大きく関与している可能性があるという。
研究者らは遺伝子変異をランダムに導入させた線虫をシャーレの中央に入れ、エサを端の方に置いて線虫の運動機能を確認した。線虫は周囲のエサに向かって移動するが、運動機能に問題がある場合はエサまでなかなかたどり着くことができないのだ。1日目でエサに到達できなかった線虫は、もともと運動機能に問題があったものとして実験から除外する。

そして、エサまで到達できた線虫が老化してから、再び同じ実験を行う。この実験でエサまで到達できなかった線虫には、健康寿命に影響を与えるような遺伝子変異が起きていると考え、研究者らはこの遺伝子変異させた線虫と通常の線虫との遺伝子を比較し、健康寿命に重要な役割を持つとされる遺伝子「elpc-2」を特定したのだ。

elpc-2遺伝子はタンパク質の折り畳みを調整するなどの機能を持つ「エロンゲーター複合体」の一部に関与しており、elpc-2遺伝子に変異が起きていた線虫では正常なエロンゲーター複合体が欠如していたという。この変異体に正常な遺伝子を導入したところ、線虫たちの運動機能は回復した。

健康寿命を延ばすためには、現在では運動や食事を中心とした生活習慣の改善によって運動機能の低下を予防するしかないが、ある程度高齢になってしまうと運動機能の低下を予防するための運動や食事そのものが難しくなってしまうという矛盾を抱えている。

今回の研究では、elpc-2遺伝子のみならず、寿命には影響せずに健康寿命にのみ影響を与える他の遺伝子変異も複数発見された。今後、ヒトでも同様の役割を持つような遺伝子を見つけることが出来れば、もしかしたら運動機能が低下してしまうリスクを事前に知ることが出来たり、全く新しい治療法が確立されるかもしれない。

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エピネシス・コラムズ
線虫をシャーレの中央に置き、シャーレの端にエサを置いて線虫の運動機能を調べる新たな研究手法「エッジ・アッセイ」によって、数百匹の線虫の運動機能を同時に調べることが可能となりました。

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