変わり続ける科学の教科書、遺伝学における「優性・劣性」は「顕性・潜性」に変更

2019年7月11日

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基本的に定説は不変である科学の世界でも、人が決めたルールだけは例外だ。小学校や中学校、高校などで学習する内容は、これまでに少しずつ変化してきた。例えば、水素イオン指数を表す「pH」「ペーハー」と呼んでいる方は多いだろう。しかし、現在では「ピーエイチ」という読み方で教えられているのだ。実は、1957年には日本工業規格(JIS)によって「ピーエイチ」という読み方で統一することが決定されていたが、教育者が「ペーハー」として教えるなどの理由でなかなか普及しなかった。しかし、現在では「ピーエイチ」が取って変わりつつあるという。

また、リットルを表記するときに筆記体の「ℓ」を使っている方も多いだろう。従来まではリットルの表記は「ℓ」を使うものとして教えられてきたが、国際単位系の基準では「単位を表記する際には立体(正体)で表記する」とされているため、2006年から文部科学省の指示によって高校の物理や化学の教科書において筆記体「ℓ」の表記を、大文字立体「L」の表記に変更するような動きがあったのだ。現在では、小学校から高校まで使う全ての教科書で大文字正体の「L」が使用されている。

参考記事:リットルが大文字の「L」である理由は?

「優性・劣性」は「顕性・潜性」に最近でも新たな動きがあった。日本の科学者の内外に対する代表機関である日本学術会議は、2019年7月に遺伝子の特徴を示す「優性・劣性」を、「顕性・潜性」に変更することを提案したのだ。血液型がAB型の親と、血液型がO型の親から生まれた子の血液型は、基本的にはA型またはB型になる。これはA型とB型「優性形質」であり、O型「劣性形質」であるからだ。しかし、こうした表現ではあたかも優性形質であるA型またはB型が「優れた形質」、劣性形質であるO型が「劣った形質」という誤解を与えかねない。
日本遺伝学会はこうした事態を受け、2017年から優性を「顕性」、劣性を「潜性」へ改定した。今回の日本学術会議における提案は、こうした流れを受けたものだ。

そもそも、なぜ優性・劣性が使われていたのか?

遺伝の法則を発見したグレゴール・ヨハン・メンデルはもともと、現代における「優性・劣性」を「Dominant・Recessive」という言葉で表現していた。”Dominant”は大まかに訳すと「他を支配する」や「影響力の強い」という意味で、”Recessive”は「引っ込む」や「退く」という意味だ。これが1902年に遺伝学者である星野 勇三(ゆうぞう)が日本ではじめて「壓性(あつせい)・被壓性(ひあつせい)」という言葉に訳したという。

その後は「凌越的・隠退的」、「顕性・陰性」、「跋扈(ばっこ)的・退縮的」など様々な表現が登場して、はっきりとしない状態が数年続いたが、1910年に理学博士であった郡場 寛(こおりば かん)が「優性・劣性」という言葉を論文で使用してから、ようやく「優性・劣性」で統一されるようになったという。優性・劣性という表現が使われるようになって100年もの時が流れたが、実は1945年頃には、すでに他の用語に改定させるべきという指摘があったことが確認されている。

安易に用語を変更させると混乱を招く恐れはあるものの、もしかしたら対応はかなり遅すぎたのかもしれない。「誤解を防ぐため」という理由ではあるが、「優性・劣性」に慣れ親しんだ世代にとっては、別の新たな誤解を生みかねない。学校教育が終了してからも、こうした動きには常に目を光らせておく必要があるだろう。

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