あらゆる研究者における”名誉の数”、「エルデシュ数」とは?

2019年7月9日


Number 1 [one] flickr photo by Anoush Dehkordi shared under a Creative Commons (BY) license

わずかな服と論文が入った粗雑なスーツケースだけを持って、様々な数学者の家を訪ねては共同で研究を行い、また次の数学者のもとを訪ねる——それが放浪する天才数学者、ポール・エルデシュの生き方であった。

Paul_Erdos_with_Terence_Tao
either Billy or Grace Tao [CC BY-SA 2.0via Wiki Commons
1985年にアデレード大学で撮影された写真。左に写っているのがポール・エルデシュだ。
右に写っている少年は当時10歳のオーストラリア人数学者のテレンス・タオで、2006年には「数学界のノーベル賞」といわれるフィールズ賞を受賞した。

彼にとって数学とはチームプレイであり、独力で証明に取り組むよりも、より多くの数学者と共同研究を行うことで効率的に問題を解決させることを選んだ。生涯で1475編という、20世紀で最も多くの論文を発表した彼の共著者はなんと500人を越える。彼と共同で研究を行うことは数学者にとって非常に名誉なことであり、いつしか敬意を込めて”ある数学的なジョーク”が考案された。それがエルデシュ数である。

エルデシュ数は、簡単に説明すると「ポール・エルデシュとどれだけ近いか」を表す数字だ。ポール・エルデシュ自身のエルデシュ数を「0」とし、彼と共著で論文を書いた者にはエルデシュ数「1」が与えられ、さらにこのエルデシュ数が「1」の研究者と共著で論文を書いた者にはエルデシュ数「2」が与えられる。

このように、あるエルデシュ数nを持つ研究者と共著で論文を書いた者にはn+1のエルデシュ数が与えられることになる。
言い換えれば、どれだけの人を介せばポール・エルデシュにたどり着けるかを表しているのだ。ポール・エルデシュに「遠い」ほど、エルデシュ数は大きくなるため、より小さなエルデシュ数を持つことはポール・エルデシュに近く、名誉なことであると言える。

ちなみに、エルデシュ数を持っている人と共著で研究を行ったことのない人は、”エルデシュ数を持っていない”とみなすか、あるいは”エルデシュ数が「∞」”であるとされる。


einstein flickr photo by juliankopald shared with no copyright restrictions using Creative Commons Public Domain Mark (PDM) 
アルバート・アインシュタインのエルデシュ数は「2」だ。

ポール・エルデシュ自身は1996年に亡くなってしまったので、もう誰もポール・エルデシュと共著で論文を書くことができない。すなわち、エルデシュ数が「1」の人はもうこれ以上増えることはないのだ。
ポール・エルデシュと共著論文を書いた人はこれまでに511人。そのうち日本人は吾郷孝視氏、角谷静夫氏、白尾恒吉氏の3人で、いずれも数学者である。

しかし、エルデシュ数を持つ人たちは必ずしも数学者であるとは限らない。ポール・エルデシュの数学の研究は数論、グラフ理論、集合論、確率論など多岐に渡るうえに、近年では異分野間における共同研究も数多く行われるようになっているため、エルデシュ数を持つ研究者のなかには物理学者や生物学者、天文学者、地質学者、さらには言語学者や政治学者などもいるため、現在では理系学問だけに留まらず様々な学問の研究者がエルデシュ数を持っているのだ。
エルデシュ数「2」を持つ研究者でさえ9,000人以上いるため、精力的に研究活動を行っている研究者ならほとんどの人がエルデシュ数を持っているだろう。

ベーコン数

ポール・エルデシュのように、高名な人物とどれだけ近いか数値化するというバリエーションはいくつか考案されている。例えば、映画界では非常に多くの作品に出演しているアメリカの俳優ケヴィン・ベーコンとの近さを表すベーコン数というものが知られており、エルデシュ数と同様にケヴィン・ベーコンとの共演に応じてベーコン数が与えられるのだ。ケヴィン・ベーコンの共演者と共演した人物、すなわちベーコン数「2」を持つ日本人には渡辺謙や真田広之、平泉成などが知られており、彼らと共演したことのある俳優はすべてベーコン数「3」を持つことになる。

他にも、「棋聖」と称されるほど優れた囲碁棋士であった本因坊 秀策との近さを表す「秀策数」や、19世紀における伝説的なチェスプレイヤーであるポール・モーフィーとの近さを表す「モーフィー数」などが考案されている。エルデシュ数は研究者でないと手に入れることは難しいが、もしかしたらあなたも本稿で紹介したいずれかの数を知らないうちに所有しているかもしれない。

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