宇宙飛行士たちの深刻な睡眠障害、約75%が睡眠薬を服用している

2019年05月26日


ISS flickr photo by brucedetorres@rocketmail.com shared with no copyright restrictions using Creative Commons Public Domain Mark (PDM)

”宇宙医学”は、宇宙で起きる様々な人体への影響について調べる研究分野だ。宇宙では、血液量や筋肉量の減少、骨密度や免疫力の低下、視覚障害や放射線障害など様々な身体的影響を受けることになるが、なかでも特に注目視されているのが睡眠障害だ。2014年の調査によると、NASAのガイドラインでは1日のうち8.5時間の睡眠が定められているが、実際の宇宙飛行士らの平均睡眠時間は6時間弱であり、実に6~7割もの宇宙飛行士が不眠を自覚しているという。

宇宙での睡眠を最初にレポートしたのは旧ソ連の宇宙飛行士、ゲルマン・チトフ氏だ。ユーリイ・ガガーリンが世界で初めて宇宙飛行に成功した4か月後となる1961年8月、無重力状態が人体に与える影響を調べるため、チトフ氏はボストーク2号に乗って軌道上を約1日飛行した。軌道に入った後はすぐにめまいや頭痛、嘔吐などのいわゆる”宇宙酔い”の症状が現れたが、その後は8時間37分に渡って眠ることができたという。「素晴らしい眠りで、浮遊感の中、赤ちゃんのようにぐっすりと眠った」と答えたそうだが、起きた後の気分は”不良”であったと記録されている。

地上から約400kmの軌道を周回する有人実験施設、ISS(国際宇宙ステーション)では約6名の宇宙飛行士が常時滞在しているが、これまでに搭乗した宇宙飛行士の約75%が睡眠薬を服用しているという調査結果が報告されている。

ISSは約90分という速さで地球を1周している——つまり、約45分毎にに昼と夜が訪れるのだ。地上のような日照リズムが無いために体内時計が崩れ、入眠困難中途覚醒などの睡眠障害が生じてしまうという。これらの不眠症状によって集中力判断力が低下することは、宇宙飛行士にとって深刻な問題である。宇宙における様々な計画や実験に支障をきたすだけでなく、命に関わるような重大な事故を招くおそれもあるのだ。

だが、睡眠薬を多用することも大きなリスクを伴う。長期の服用は認知機能を低下させたり、離脱(薬を減らしたり服用をやめること)によって逆に眠症状が現れるなどの悪影響を生じさせることもある。

また、ほとんどの睡眠薬に「車の運転や重機の操作は控えるように」という注意書きがある通り、もし緊急事態が発生し、警報によって目を覚ましたときに最大限のパフォーマンスを発揮できない恐れもある。睡眠薬への依存を断ち切るためにも、根本的な解決が望まれている睡眠障害であるが、いくつかの複合的な要因が重なっている場合も多く、治療は困難を極める。


Massive X-Class Flare Released on June 6 [full disk] flickr photo by NASA Goddard Photo and Video shared under a Creative Commons (BY) license
宇宙では目を瞑っていても直線あるいは星状の光が見えることがある。これはライトフラッシュと呼ばれる現象で、網膜または脳の視覚野が放射線の照射を受けることによって生じると考えられている。10~15分に1回程度の頻度で起きるそうだが、太陽活動が活発になると頻繁に起きるためしばしば睡眠を妨げる。

宇宙ステーションの寝室は?

こちらは若田光一 宇宙飛行士による、国際宇宙ステーションの寝室についての説明だ。

ISSでは、電話ボックスくらいの大きさの箱型ベッドで寝袋に入って睡眠をとる。低湿度狭いうえに、空気を循環させるためのファンによる騒音があるため決して快適であるとは言えないが、それでも宇宙飛行士たちは決められた予定に沿ってしっかりと睡眠をとっているのだ。睡眠不足といえど、眠りにつくことができるだけでも驚くべきことかもしれない。

私たち人類が宇宙で活動するためには、数億年かけて手に入れた地上での”常識”が大きく立ちふさがっている。私たちが宇宙で安眠することができる日は来るのだろうか。

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