特異遺伝子を持つ人の骨髄移植により2人目のHIV寛解例を確認

2019年3月6日


Commemorative Red Ribbon White House 2014 World AIDS Day 50181 flickr photo by tedeytan shared under a Creative Commons (BY-SA) license

エイズ(後天性免疫不全症候群)はHIVと呼ばれるウイルスに感染することによって発症する病気だ。エイズを発症すると体の免疫機能が失われ、通常では感染しないような病原体からの感染や悪性腫瘍の発生など様々な症状が現れる。(参考記事:HIVとエイズの違いとは?)

現在では抗HIV薬などによって生涯に渡って症状を抑えられる治療法が確立されているが、決して安価ではない薬を生涯服用しなければならず、患者の体内からHIVが排除されたわけではない。

ベルリンの患者

だが、これまでにたった2例だけ、2人の患者が体内からHIVが検出されない寛解(かんかい)状態にまで回復することに成功している。1人目はクリスティアン・ハーン(仮名)と呼ばれている人物で、感染の初期にHIVに有効であるか確認されていないヒドロキシカルバミドという抗がん剤による実験的な治療によってHIVの寛解に成功した。
もう1人はティモシー・ブラウンという人物で、彼はHIV感染から10年後に急性骨髄性白血病を診断され、2008年に「HIVに抵抗性のある特殊な遺伝子」を持つ人物からの造血幹細胞移植を受けて、のちにHIVの寛解が確認された。彼らはいずれもベルリンに住んでおり”ベルリンの患者”(Berlin patient)と呼ばれている。

そして今回、ティモシー・ブラウンと同様の治療法によって、ロンドンのHIV感染者が新たに3人目(公式には2人目)となるHIVの寛解に成功したことが科学誌『Nature』で発表された。この患者はHIVの治療を停止してから19か月近くもウイルスが検出されていないという。

HIVに生まれつき抵抗性を持つ人々

”ベルリンの患者”のうち2人目であるティモシー・ブラウンが感染したころ、ある論文が発表されていた。それは「一部の同性愛者ではHIVに感染するようなハイリスクな行為を繰り返してもHIVに感染しない」というものであった。
HIVはCD4陽性T細胞の表面にあるCCR5というタンパク質を”足掛かり”として、増殖するために必要なT細胞へと侵入するが、論文で報告された一部の同性愛者では、CCR5タンパク質に関わる遺伝子に欠損が生じており、CCR5タンパク質がT細胞表面に発現していなかったのだ。


HIV-infected T cell flickr photo by NIAID shared under a Creative Commons (BY) license
T細胞に群がるHIV(黄色に着色)。

ティモシー・ブラウンと今回の新しい寛解例では、このような遺伝子欠損を持つ人からの造血幹細胞を移植することで、患者の血液では細胞表面に”足掛かり”の無いT細胞が作られるようになり、結果としてウイルスが検出されないレベルにまで回復させることに成功したというわけだ。
ただし、全てのHIVがCCR5タンパク質を”足掛かり”にしているわけではないので、全てのHIV感染者に全く同じ治療法が適応できるわけではない。HIVの無い世界を目指して、人類の戦いはこれからも続いていく。

※HIVの検出には限界があり、患者の体内にはまだHIVが存在している可能性があるため、完治や治癒ではなく「寛解」としている。

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