コーヒーの野生種が絶滅の危機、猛威を振るう「コーヒーさび病」

世界中で愛され、飲まれているコーヒーは単純に深い苦みと香りのある飲み物ではない。かつて数学者のレーニ・アルフレードが「数学者はコーヒーを定理に変換する機械である」と述べたように、コーヒーがもたらすカフェインは数学者に限らず、世界中のあらゆる労働の原動力となっている。私たちの日常に欠かせないコーヒーであるが、今やいくつかのコーヒーの野生種が絶滅の危機に瀕しているという。コーヒーに今、何が起きているのだろうか?


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コーヒーには大きく分けて栽培種と野生種がある。野生種は病気や環境変化に弱いが、栽培種よりも上質な味わいがある。美味しいコーヒーには野生種の存在が欠かせない。

イギリスのキュー王立植物園の研究チームは、野生種のコーヒーのうち60%に絶滅の恐れがあるという論文を2019年1月19日に発表した。コーヒーの124種の野生種について、現地調査や最新のコンピューターモデリングによって詳しく調査を行った結果、124種のうち22種が「危急」、40種が「絶滅危機」、13種が「絶滅寸前」であると判断されたのだ。これは絶滅の危険性が最も高い植物群に匹敵するほどであるという。

この研究ではあくまで野生種のみを対象としたものであるが、これはコーヒーに迫りつつある”危機”が、変化や病気に弱い野生種によって表面化しているに過ぎないのかもしれない。現在、多くの国でコーヒー豆の生産量が減少し続けているのだ。

地球温暖化と「コーヒーさび病」

コーヒーを脅かす要因は様々であるが、なかでも重要な問題は地球温暖化だ。コーヒーの栽培には年間の平均気温が20度前後で、高地であることや雨季と乾季に分かれた気候であるなどの条件が必要であり、だいたい北緯25度から南緯25度までの「コーヒーベルト」と呼ばれる地域で主に栽培されている。しかし地球温暖化の影響によって気温が上昇すると、現在の生産地域でコーヒーを栽培することができなくなってしまうのだ。研究者らの予想では、2050年までにコーヒーの栽培地は半分にまで減少してしまうという。


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さらに、気温が上昇するとコーヒーさび病を引き起こすHemileia vastatrix(ヘミレイア・ベスタトリクス)という菌類が、コーヒー栽培に適した高地にまで広がる恐れがある。この菌類がコーヒーの葉の気孔から侵入すると、葉にさび状の病変部が生じて葉を枯らしてしまう。この感染した葉からは胞子が放出され、病気はあっという間に広がっていくのだ。葉が枯れ落ちると光合成能力は低下してしまうため、豆の生産能力や品質の低下はもちろん、コーヒーの木そのものまで枯らしてしまう。

事実、現在では紅茶の生産で有名なスリランカはもともとはコーヒーを主な産業としていたが、1869年に発生したコーヒーさび病によってコーヒーが壊滅、以降は紅茶の生産に転換したという。そのコーヒーさび病は今もなお猛威を振るい、中米の各国でコーヒー豆の生産量を著しく低下させているのだ。


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この問題は単においしいコーヒーが飲めなくなるという話ではない。コーヒー産業に携わる約1億人もの労働者や、各国の経済に大きな影響を与える重要な問題なのだ。野生種の現状は、”迫りくる危機”の一部を垣間見ているのかもしれない。