世界は五分前に始まったかもしれない――「世界五分前仮説」とは?

2018年9月29日


Lightning in the Canyon flickr photo by U.S. Department of the Interior shared under a Creative Commons (BY-SA) license

創造論的な立場をとっていたイギリスの博物学者フィリップ・ヘンリー・ゴスは思案していた。旧約聖書『創世記』に記されている最初の人類”アダムとイブ”には「へそ」があったのだろうか――?

もし「へそ」があったとするならば、それはアダムとイブが神によって創られたのではなく、母親がいたということになる。「へそ」があるということは、母親の胎内でへその緒から栄養を貰っていたという紛れもない証拠だ。一方で、もし「へそ」が無かったとするならば、それは神が人類を不完全な形で創造したということになる。この問題はフィリップ・ヘンリー・ゴスだけでなく、多くの創造論者らによって議論されていた。


Die Erschaffung Adams – Michelangelo flickr photo by empeiria shared under a Creative Commons (BY) license

博物学者として研究していた彼はこの問題とは別にもう一つ、ある問題を抱えていた。化石となった生物がまだ生きていたと考えられる時代が、聖書にある記述よりもずっと前の時代であることを示していたからだ。それは当然のことで、聖書では神が天地を創造したのは約6,000年前であるが、多くの恐竜を絶滅させた巨大隕石が落下したのは6,500万年も前のことだ。

”アダムとイブ”のへそ、そして神が天地を創造するよりもずっと前に生きていた生物たち――フィリップ・ヘンリー・ゴスは、これらの問題を解決するための”ある仮説”を打ち立てたのだった。

フィリップ・ヘンリー・ゴスは、神が天地、そして人類を創造したとき「昔の時代が存在していたかのように」創造したのだと考えた。つまり神はアダムとイブにまるで母親がいたかのように「へそ」を創り、そして化石の生物たちはまるでずっと昔に生きていたかのように化石ごと創造されたというのだ。ギリシャ語で「へそ」を意味する”Omphalos”から、オムファロス仮説と名付けられたこの仮説は、フィリップ・ヘンリー・ゴスが出版した本の中で発表された。

しかし、世間の反応は厳しかった。慈悲深い神が、まるでずっと昔に生きていたかのように化石を創造したというような、人を欺くようなことをするわけがない――オムファロス仮説は、創造論者と相対する進化論者だけでなく、同じ立場である創造論者からも厳しく非難された。

このオムファロス仮説は特に大きな注目を集めることなく、人々から忘れられたが同じイギリスの哲学者バーランド・ラッセルに大きな影響を与えた。彼はオムファロス仮説を知ったときに気付いたのだ。世界は5分前に始まったと考えても不思議ではない、と。

あなたは、もし「世界が5分前に始まった」としたとき、反論することができるだろうか?厳密には5分でなくてもいい。1分前や、1秒前でもいいのだ。「昨日開けて食べたおやつの空袋がここにある。私は昨日食べた記憶があるし、この袋がここにあるということは、昨日まで世界があった証拠だ」という主張はあてにはならない。なぜなら、世界が始まった5分前に「中が空っぽのおやつの袋」、そして「昨日おやつを食べたという記憶を持った人間」ごと、この世界が創られたからだ。

世界はもしかしたら5分前に始まったかもしれない――バーランド・ラッセルが考案したこの哲学的仮説は、「世界5分前仮説」と呼ばれている。世界が5分前に始まったことを証明することはできないが、反論することもできないのだ。もしかしたら、この記事を読み始めた頃に、この世界が始まったのかもしれない。

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