紀元前から行われてきた、頭蓋骨に穴を開ける穿頭術「トレパネーション」とは?

2018年9月30日


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麻酔が行われたことを示す最も古い記録では、なんと日本が世界で最初と言われている。1804年に、江戸時代の優秀な外科医であった華岡青州(はなおか せいしゅう)が乳がんの手術において”通仙散”と呼ばれる独自に調合した麻酔薬を使って全身麻酔を行ったという記録が残っているのだ。(参考記事:なぜ「癌」は英語で「カニ」を意味するのか?)

この麻酔が登場する遥か昔に何とも奇妙で、そして驚くべき施術が行われていた。なんと、特殊な器具で頭蓋骨に穴を開けるのだ。穿頭術(せんとうじゅつ)、英語ではトレパネーション”Trepanation”と呼ばれるこの術式の歴史は非常に長く、1万年前から1990年代までの間、世界中のありとあらゆる場所で行われてきた。

古代ギリシャでは頭部を負傷して砕けた頭蓋骨の破片を取り除くために行われており、医学の父と言われるヒポクラテスや、彼に次ぐ古代ギリシャの名医ガレノスがこの穿頭術について著書に記している。穿頭術を行う際には、穿頭器と呼ばれるドリル状の工具によって頭蓋骨に穴を開けたという。

穿頭術が最も活発に行われていたとされているのは1300年~1500年までにペルーで栄えていた古代インカ帝国だ。当時のインカ帝国で使用される武器といえば、剣や槍などではなく棍棒(こんぼう)や投石器などであり、戦闘では頭部の損傷が非常に多かったと考えられている。インカ帝国で行われた穿頭も、はじめは頭蓋骨の破片を取り出すだけの応急処置に過ぎなかったとされているが、のちに急性硬膜下血腫を防ぐための医療技術として次第に高度化し、やがてインカ帝国全域で行われるに至ったとされている。実際にインカ帝国で見つかっている穴の開いた頭蓋骨の数は、世界各地で発見されている頭蓋骨の数よりも多いのだ。


Issoudun (Indre). flickr photo by sybarite48 shared under a Creative Commons (BY) license

麻酔も無い時代に頭蓋骨に穴を開けると考えると誰もがゾッとしてしまうだろう。しかしながら、頭蓋骨に神経はほとんどないうえに、脳そのものは痛みを感じないため、痛みを感じる頭皮の神経と脳を覆っている硬膜さえ通過できれば、とても耐えられないような激痛では無かったと考えられている。また、鎮痛薬としてコカインの原料となるコカが当時のインカ帝国では使われていたとされているので、痛みに対して何ら無力であったわけではなかったようだ。発見された遺骸の頭蓋骨には治癒した痕があり、術後の生存率はある調査によると7割を超えていたという。ここまで生存率が高かった理由に関しては、死んだ人間の頭蓋骨を使って穿頭の訓練を行っていたことや、西洋と異なり穿頭用の道具が使い回しされなかったために、感染症などのリスクがより低くなっていたことなどが挙げられる。

かつて穿頭術は、頭蓋内の悪魔を追い出すためや覚醒するための儀式などに用いられたという認識が強かったが、最新の研究によれば古代から行われた穿頭術の多くは、救命のために行われた非常に実用的な医療行為であったことが次第に明らかとなってきた。頭蓋骨に穴を開けるという一見すると野蛮な行為に思われるかもしれないが、医療技術が発達した現在でも、頭部に外傷を負って発生した硬膜下血腫には穿頭が行われているのだ。紀元前から行われている医療行為が現代でも同じように行われているというのは非常に驚くべきことである。

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