モーツァルトの曲を聞かせると頭が良くなる「モーツァルト効果」は実在するのか?

2018年8月5日


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オーストリアの有名な音楽家として知られる、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。35年という短い生涯のうちに手掛けた曲は600曲以上にものぼる。初めて作曲したのはなんと5歳のときだった。演奏家としてもその才能を発揮し、幼い頃から父と共にヨーロッパの各地を回って天才的な演奏を披露した。しかし仕事には恵まれず、作曲と演奏によって十分な収入は得ていたものの、浪費癖があって経済的に困窮していたという。後に衰弱して息を引き取った彼の遺骸は共同墓地に埋葬され、現在でも彼の遺骨は行方不明のままとなっている。

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不遇の天才が創りあげてきた名曲の数々は200年以上経った現在でも広く愛されている。彼が手掛けた曲はなぜこれほどまでに人を惹きつけるのだろうか?人々のその疑問に答えるように、1993年にとある論文が発表された。

モーツァルトの曲を聴くと頭が良くなるという「モーツァルト効果」という言葉を聞いたことがあるだろうか?これは、カリフォルニア大学アーバイン校の心理学者であるF.H.ラウシャー、G.L.ショー、K.N.キーらが科学誌Natureで発表した研究結果に基づいたものである。

ラウシャーらは36人の学生を「リラクゼーション用の曲を聞かせたグループ」と「何も聞かせなかったグループ」、そして「モーツァルトが作曲した『2台のピアノのためのソナタ』を聞かせたグループ」という3つのグループに分けて、スタンフォードビネー知能検査の空間認識知能テストを解かせたところ、聞かせた生徒のグループの方が短時間の間だけわずかに高い成績(スコア8~9ポイントの上昇)を示したという。

この研究はなぜこれほどまでに注目されたのだろうか?

モーツァルト効果の実験は世間の注目に値するような独自性のある先進的な研究ではなかった。実際に発表される5年前の1988年には既に心理学者のエリオット・シュライバーが大学生に音楽を聴かせただけで成績が向上したという研究結果を発表している。

実は、モーツァルト効果が発表された3年後となる1996年にアメリカのドン・キャンベルが「モーツァルト効果」を商標登録し、この研究を大規模に宣伝したことが一因とされている。彼はモーツァルト効果が実験によって示された知能指数の向上だけでなく、赤ちゃんの知力を高めたり、アレルギーやエイズに対しても効果があると強調して広告し、クラシックのCDや関連書籍を売り込んだのだ。

しかし、その後に行われた数多くの検証実験では、モーツァルト効果の再現性は曖昧であった。モーツァルトの曲を聞かせたグループだけが良い成績を示した実験結果もあれば、モーツァルトの曲だけでなく他の作曲家やロックなど、異なるジャンルの音楽でも良い成績を示したもの、あげくには曲を聞かせなかった方が良い成績を示した実験結果まであった。これらの研究から、現在ではモーツァルト効果については否定的な見解が強まっている。しかし、議論は現在でも活発に続いており、モーツァルトの曲に多くみられる高周波成分や1/fゆらぎがリラクゼーション効果をもたらし、成績の向上につながるというモーツァルト効果を支持するような主張もある。

その一方で、モーツァルト効果に関する研究が増えるほど、ある要素が重要なものと認識されるようになってきた。それは音楽教育が与える認知機能の向上である。モーツァルト効果が発表された翌年の1994年には、音楽をよく聞くような教育環境では成績が向上しやすいという研究結果が心理学者のリンチによって報告され、近年でもノースウェスタン大学の神経学者ニーナ・クラウスとバラス・チャンドラセカランは音楽教育が認知機能を向上させるような脳の変化をもたらすことを報告している。音楽を聴く、演奏する、歌うといった音楽教育は単純に聴覚的認知能力を高めるだけではなく、記憶力や語彙力などの能力を向上させ、他人との協調性やコミュニケーションを活発化させるのだ。

結論を言うならば、モーツァルトの曲を聴くことによる知能指数の向上について、確かな因果関係は証明されていない。事前に好きな音楽を聴くことによって課題に集中できる人は聴くべきであるし、そうでない人は聴かない方がいいだろう。

これは多くの人が知りたがっている答えではないかもしれないが、課題を行う前は静かにして集中力を高めたいという人や、モーツァルトの曲があまり好きではない人にとって、知能指数の向上を期待してわざわざモーツァルトの曲を聴くのはむしろ悪影響になる。現在の研究で明らかになっている確かなことは、必ずしもモーツァルトの曲である必要はないということだ。モーツァルト効果についての議論は現在でも活発に続けられており、音楽と認知機能・教育に関する知見はこれからも増えていくだろう。

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