移植しても拒絶反応が起きない「免疫特権」とは?

2018年6月29日


flickr photo by Commander, U.S. 7th Fleet shared under a Creative Commons (BY-SA) license

ヒトの身体には、異物が侵入してもこれを攻撃、そして排除するための免疫機構が備わっている。それは移植した臓器なども同じだ。ヒトの細胞表面には主要組織適合性抗原と呼ばれる、人それぞれで異なる糖タンパク質がある。体内の免疫細胞はこの主要組織適合性抗原に触れ回って常に異常が無いかどうか確認しているのだ。もし、免疫細胞がその人とは異なる主要組織適合性抗原を発見した場合、様々な手段でこれを攻撃しようとする。これが拒絶反応だ。

移植する場合にはこの拒絶反応をできるだけ抑えるために、臓器提供者(ドナー)臓器受容者(レシピエント)はできるだけ近い抗原型が選ばれる。しかし、主要組織適合性抗原の型は数万種類非常に多いため完全に拒絶反応を抑えることはできないのだ。移植後、レシピエントは生涯に渡って免疫抑制剤を服用して拒絶反応を抑え続ける必要がある。

しかし人間の身体の一部には、この免疫機構が制御されており、拒絶反応が起きにくい「免疫特権(immune privilege)」と呼ばれる特殊な性質を持つ器官が存在する。例えば中枢神経系,毛嚢(もうのう),精巣や母親のお腹にいる胎児などだ。これらは高度な生命活動種の存続において重要な器官であり、免疫応答による炎症反応が起きるとかえって組織機能障害してしまうため、その機能を守るため免疫特権が存在していると考えられている。この免疫特権という言葉は”移植免疫学の父”と呼ばれるピーター・ブライアン・メダワー1948年に発表した論文で初めて登場した。

免疫特権を持つ「免疫特権部位(immune privilege site)」のうち、特にについての研究は進んでいる。眼は拒絶反応が起きにくく、遺伝子治療などの他の器官では試せないような先進的治療を比較的安全に試すことができるのだ。また、眼で成功した治療法は同じように免疫特権を持つなどにも応用しやすいという利点もある。

しかしながら、この免疫特権は何もいいことばかりではない。いくつかの病気ではこの免疫特権が原因で引き起こされているのだ。例えば円形脱毛症毛嚢の免疫特権のシステムが崩壊することにより、免疫細胞が毛嚢を攻撃するため髪が抜けると考えられている。(参考記事:何の前触れもなくある日突然毛が抜ける「円形脱毛症」とは?)

また、近年の研究では免疫機構から隔絶された環境であるがゆえにウイルス悪性腫瘍細胞のいわゆる避難所のようにされている可能性指摘されている。実際に、ジカウイルスエボラウイルスなどのウイルスが、感染から数か月後患者の精巣から検出されたことが報告されている。

人類がヒトの複雑な免疫機構を理解することは、様々な病気の原因を解明したり、新たな治療法を開発するための重要な手掛かりになるだろう。新しい医学の時代は、もう既に幕を開けているのだ。

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