ナナフシが「鳥に食べられる」ことで生息域を拡大したという新説が提唱される

木に擬態する昆虫「ナナフシ」は、天敵に見つかったとしても子孫を残せるような繁殖戦略を持っているかもしれない――


DSC_1401 flickr photo by Pasha Kirillov shared under a Creative Commons (BY-SA) license

寄生虫「レウコクロリディウム」(※閲覧注意)の生活史は奇妙で、そして恐るべきものだ。宿主であるカタツムリに寄生すると、カタツムリの目に移動してまるでイモムシのように振る舞う。最終宿主である鳥がこれを食べると、鳥の体内で繁殖して卵を鳥の糞と一緒に排出させる。自らを鳥に運んでもらうことで、種としての分布領域を大幅に広げることができるのだ。

鳥が食べるのは主に果実または昆虫である。植物は果実を作り、これを鳥に食べさせることで種子を遠くまで運んでもらえるが、もしかしたら昆虫も、鳥を利用して生息域を広げているかもしれない。

「昆虫が鳥に食べられても、体内にある卵が無事に排出されてふ化が起きる」というシナリオについて、神戸大学,高知大学,東京農工大学の教授らによる研究グループが検討した結果、次の3つの条件を満たす必要があるという。

1つ目の条件は「鳥の消化器官を通過できる強固な卵を有している」ことだ。この条件を満たせなければ、鳥に食べられたとき卵も一緒に消化されてしまうため、当然ながら卵がふ化することはない。

2つ目の条件は「ふ化した幼虫が自ら餌場に移動できるだけのエネルギーを持っている」ことだ。モンシロチョウはキャベツの葉に卵を産むが、これは生まれてからすぐ幼虫がキャベツの葉を食べることができるからだ。さらに言えば、モンシロチョウの幼虫は自らが生まれた卵殻すら食べることができる。
鳥の消化器官を通り抜けて無事に幼虫がふ化しても、そこに都合よく餌があるような環境であるとは限らない。幼虫は自らの力で餌を見つけ、たどり着くためのエネルギーを持っていなければならないのだ。

3つ目の条件は「単為生殖が可能である」ことだ。多くの昆虫は産卵時に受精を行うので、ふつう昆虫の体内にある卵は未受精卵だ。このままでは、鳥の消化器官を通り抜けて無事に卵が排出されたとしてもふ化することはない。つまり、体内にある卵が未受精卵でも幼虫がふ化するような単為生殖の昆虫である必要がある。


Huge stick insect from Costa-Rica flickr photo by Pasha Kirillov shared under a Creative Commons (BY-SA) license

研究グループらはこれらの条件を満たす昆虫を見つけ出した。それがナナフシだ。
ナナフシの卵はシュウ酸カルシウムの硬い層があって頑丈だ。3種のナナフシの卵をヒヨドリの餌に混ぜて食べさせる実験では、5~9%の卵が無事に排出された。この実験では卵から幼虫が孵(かえ)ることはなかったが、後にナナフシモドキで行った実験では70個の卵のうち14個が無事に排出されて2個がふ化した。

また、ナナフシは産卵場所を選ばずに、植物の種子に似たような卵をポロポロと産み落とす。幼虫は生まれてから自力で餌を探すだけのエネルギーを持っているのだ。そして、ナナフシの多くの種が単為生殖である。これでナナフシは鳥に食べられても子孫を残せる昆虫に必要な3つの条件を全て満たしていることになるのだ。

ナナフシは翅(はね)を持っているが、ほとんど滑空するような飛び方であるため長距離の移動を行うことができない。しかし、ナナフシは陸地とつながっていたことがない島にも分布しているという。もしかしたら、今後の検証によって「鳥に食べられることによって分布域を拡大する」という驚くべきナナフシの生態が明らかになるかもしれない。