無くなってしまったはずの手足が痛む「幻肢痛」とは?


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何らかの病気や事故で手や足を切断した多くの患者は、まるでそこに失ったはずの手足が存在するように感じられる「幻肢(げんし)」と呼ばれる現象を体験することがある。例えば、腕を失ってしまった患者が実際にあるはずのない肘や指を意識の中で曲げたり伸ばしたり、物や壁などを触ることができる、といった不思議な感覚だ。

さらには、無いはずの手や足に痛みやしびれ、温かい・冷たいといった感覚が生じることがある。手を切断した人が、無いはずの”指先”に痛みを感じたり手が冷えていると感じることがあるのだ。この奇妙な現象は「幻肢痛(げんしつう)」、英語ではファントムペイン(Phantom Pain)と言う。研究によれば手や足を切断した人の実に80%以上が体験するという。報告では、幻肢痛は患者の年齢が低いほど起こりにくく、患者の年齢が高齢であるほど発生頻度は増加していく傾向にある。

患者が体験する痛みの程度や感覚は様々だ。ビリビリと痺れるような感覚を訴える患者もいれば、まるで万力で押し潰されるといった非常に強い痛みを訴える患者もいる。これらの痛みは手足が切断されてすぐに生じることは少なく、多くの場合は切断後数週間から数か月後に起きるという。また、奇妙なことに感覚的に存在する架空の手足(幻肢)を動かせない患者では、この幻肢痛が強くなりやすいことが報告されている。

発生メカニズムは現在のところ明らかになっていないため、有効な治療法は確立されていないが、仮説に基づいたいくつかの治療法によって緩和または改善されることがある。幻肢痛の治療法として最も有名なのは、鏡を使ったミラー・セラピーだ。例えば、左腕を失ってしまった人に幻肢痛が生じている場合は、右腕を鏡に映して左腕が存在しているように患者に視認させる。あとは幻肢の左腕の手を握ったり開いたりするのと同時に、右腕を動かして鏡に写っている左腕も同じように握ったり開いたりさせる。不思議なことに、これだけで幻肢痛の痛みが緩和されたり消失することがある。

しかしながら、その一方で全く効果が無かったり、痛みがより悪化してしまうというケースも報告されているため、有効な治療にはやはり根本的なメカニズムの解明が待たれる。このように、難治性の疼痛として知られる幻肢痛であるが、その一方で自然治癒することがある。一般には幻肢痛の痛みが次第に和らいで最終的に消失していくが、興味深いケースでは幻肢の大きさや形が変化していくのを感じ、経過に伴い次第に幻肢が縮小して、やがて幻肢が消えて痛みが無くなるという「テレスコーピング現象」が報告されている。

また、手や足を切断していない場合でも脊髄損傷や脳卒中などによって幻肢が出現する――例えば肩の上に”もう一つの”腕が存在するなどといった感覚が生じて、それを意識の中で動かすことができる「余剰幻肢」という極めて稀なケースも報告されており、通常の幻肢と同様に幻肢痛を感じることがあるという。脳は自らの身体をどのように認識し、操っているのだろうか。幻肢痛はその根幹に関わっているのかもしれない。