無重力状態で人体に起きる影響や変化とは?

2017年8月2日


ISS flickr photo by Caroline Davis2010 shared under a Creative Commons (BY) license

現在、人類はISS(国際宇宙ステーション)に宇宙飛行士を交代で常時滞在する体制をとっている。これは宇宙という特殊な環境で行われる実験や研究の他に、宇宙飛行士の無重力環境における人体の変化をデータとして収集するという副次的な役割もある。無重力状態では一体どのような人体の変化が見られるのだろうか?

無重力状態となって最初に表れる人体の影響は体調だ。無重力状態に移行してからしばらくすると、私たちが船やバスに乗ったときによく起きる吐き気や倦怠感といった乗り物酔いの症状と同じ症状を多くの宇宙飛行士が体験する。これがいわゆる「宇宙酔い」と呼ばれる症状で、医学的には宇宙不適応症候群という。

ヒトの身体は重力による負荷を抑えるようなつくりになっている。脊柱でクッションの枠割を果たす椎間板は重力下では押し潰された状態となっているが、無重力状態ではこれが解放されるため身長は数cm伸びる。宇宙飛行士によっては7cm以上も身長が伸びたという報告もあるから驚きだ。それに伴って脊柱周辺の筋肉も引っ張られるため宇宙飛行士はしばらくの間、背中や腰の痛みに苦しむのだという。

通常、心臓から送り出されて足まで届いた血液は下肢部の筋肉を使って上半身へと押し戻しているが、無重力状態ではこれが逆に強くはたらいてしまい、上半身に血液が集まってしまうのだ。無重力状態で起きるこの現象は「体液シフト」と呼ばれ、頭部には血液やリンパ液が停滞して顔がむくんだ状態となり、いわゆる「ムーンフェイス(満月様顔貌)」と呼ばれる特徴的な丸い顔つきになる。

体液シフトによって起きる変化はもちろん顔だけではない。ヒトの上半身、主に頭部に血液が集まることで身体は「体液が増えすぎている」と判断し、体液を排出して血液を減少させる。この現象は滞在期間が長いほどより顕著になり、1か月では約8%、3か月では約16%もの血液が減少してしまう。そのため宇宙飛行士は帰還する際に塩分と大量の水を摂取して体液を補充する。

参考記事:宇宙から帰還する時に起きることとは?

最も大きな影響があるのは筋肉だ。身体を支える必要が無くなったために心臓を含めほとんどの筋肉が衰えてしまう。重力による負荷が無くなった骨からはカルシウムやリンが溶け出して尿路結石や骨折などを引き起こしやすくなってしまう。これらを防ぐために宇宙飛行士は1日に最低でも2時間以上のトレーニングを行っているが、やはり全身の筋力低下は避けられないという。

これからは月移住計画や有人火星探査など、微重力や無重力状態で活動する期間は非常に長くなる。人類の宇宙進出は、高度な宇宙開発技術さえあればいいというものではない。「宇宙医学」の今後の発展に大きく期待したい。

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