宗教と科学—麻酔は神の定めに反するか?

2017年7月31日


The Vatican flickr photo by jeroen_bennink shared under a Creative Commons (BY) license

ガリレオ・ガリレイが宗教裁判にかけられたことや、フライング・スパゲッティモンスター教などに代表される宗教と科学の対立はこれまで幾度となく繰り返されてきた。宗教側は、神の教義に反する指摘をしたり疑問を抱く科学者をときに異端視し、研究の妨害や不当な刑罰を与えて科学的発展を妨げてきた。しかし、その一方で科学は”神が与えし”生命や自然をもてあそび、”神の御業”である宇宙の調和や奇跡に対して勝手なる科学的説明を与えてきた。

1847年のイギリスでも、まさに科学と宗教との対立が繰り広げられてきた。イギリス・エジンバラ大学のジェームズ・シンプソン医師がクロロホルムを用いた無痛分娩法の臨床応用を開始したが、これが神の定めに反する行為であるとして英国キリスト教会が猛抗議に出たのである。旧約聖書の創世記 3章16節には「あなたは苦しんで子を産む」とあり、このとき神は禁断の果実を口にした人類に対して出産の際に激痛を伴うよう呪いをかけたとされている。無痛分娩によって神が定めし出産の痛みから免れることはこれに反する行為であるというのだ。

これに対してシンプソン医師は同じく旧約聖書の創世記 2章21節の「そこで主なる神は人を深く眠らせ、眠った時にそのあばら骨の一つを取って、その所を肉でふさがれた。」という記述を取り上げ、「麻酔は神が最初に行ったもので、神が与えし技術である」と反論したという。

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Laocoön flickr photo by Giulio Menna shared under a Creative Commons (BY) license

キリスト教においてエバに禁断の果実を口にするよう唆した蛇は悪魔の象徴として忌み嫌われることもある一方で、科学においてはアスクレピオスの杖やケーリュケイオンに代表されるように医学の象徴として崇められてきた。

この論争は結局のところイギリスにおけるキリスト教最高位であったビクトリア女王が無痛分娩を受けたことによって幕を下したが、シンプソン医師の反論は宗教における科学の在り方を的確に捉えているように思われる。宗教は科学をどう受け取るべきなのか、科学は宗教にどう受け入れられるべきなのかついて、考えてみる必要があるかもしれない。

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