実は言われているほど強くない?「クマムシ伝説」の裏側を探る

2017年2月27日


A waterbear / Tardigrade through a microscope flickr photo by Rosa Menkman shared under a Creative Commons (BY) license

今や有名となり,生物界における世界最強の称号を欲しいままにしているクマムシ乾燥・圧力・低温・高温・放射線などの厳しい環境にも耐えなんと宇宙空間に晒されても生存が確認されたという。今や”独り歩き”さえ始まっている,そんな「クマムシ伝説」裏側をあえて探ってみよう。

クマムシのこのような環境への”過剰な”耐性は乾眠と呼ばれる一種の仮死状態によるものだ。乾燥した環境下では,クマムシは樽状の構造となり1~12か月,最大で9年もの間,生き抜くことができる。乾眠状態の代謝速度はなんと1万分の1にもなるという。

だが,周囲の水分がゆっくりと蒸発しなければクマムシは乾眠状態に移行できずに死んでしまう。乾眠状態にさせるには,ろ紙寒天の上で自然乾燥させるのだ。ただ,クマムシの名誉のために補足すると、主に苔などに生息しているクマムシが乾眠状態に移行できないほどの厳しい乾燥に晒されることはそうないだろう。


A Tardigrade flickr photo by peter.v.b shared with no copyright restrictions usingCreative Commons Public Domain Mark (PDM)

クマムシの生息域は幅広く,身近な苔類や土壌,南極や深海からも見つかっている。起源は海とされており,一部のクマムシは乾燥耐性を獲得して陸上進出を果たしたと考えられており,体に水分をまとわなければ呼吸することができない。

クマムシといえば,高い放射線耐性もその特徴の一つだ。これは乾燥への耐性を獲得する際に得た副次的な能力で,実は乾眠状態よりも通常状態の方がむしろ放射線耐性が高い。57万レントゲンという,人の致死線量を遥かに超える放射線に曝されても生存していたことは有名な話だ。

しかし,全てのクマムシが57万レントゲンもの放射線量に耐久できるということではない。実験に使用されたクマムシはおよそ700匹で,生存が確認されたのはおよそ3匹である。実験に使用された約99.5%のクマムシは死んでしまったのだ。また,生存したクマムシについても,その”余生”健康に過ごせたかどうかは定かではない。実際に,放射線照射された個体の孵化しなかったことが確認されているのだ。だが,そのことを踏まえても57万レントゲンもの放射線量を浴びて生存できることは驚嘆に値するだろう。

そして,クマムシにはとある伝説的な噂がまことしやかに囁かれている。それは,120年前の標本に水分を与えると蘇生したというものだ。しかしこれは,実際には120年前の標本に水を与えて12日目に1匹のクマムシの肢が僅かに伸び縮みしたという記録に基づいた話であり,蘇生したことを示すものではない。

押すと潰れて死んでしまうしひっくり返って起き上がれないと餌を取れずに餓死してしまうクマムシ。本当に最強生物なのかどうかは分からないがそんなクマムシは身近にあるギンゴケなどの苔類から意外にも簡単に見つけることができる。機会があれば,ぜひその姿を観察してみよう。

英語では「ウォーターベア」と呼ばれるクマムシのずんぐりむっくりとしてぎこちないその姿は見る人によってはたまらない,まさしく”世界最強”の愛らしさだろう。

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