実は言われているほど強くない?「クマムシ伝説」の裏側を探る


A waterbear / Tardigrade through a microscope flickr photo by Rosa Menkman shared under a Creative Commons (BY) license

今や有名となり、生物界における世界最強の称号を欲しいままにしているクマムシ。乾燥・圧力・低温・高温・放射線などの厳しい環境にも耐え、宇宙空間に直接さらされても生き延びたという報告もあります。

しかしながら、クマムシは本当に最強の生物なのでしょうか….?

乾燥耐性

クマムシのこのような環境への過剰とも思える耐性は「乾眠」と呼ばれる一種の仮死状態によるものです。

乾燥した環境下ではクマムシは樽(たる)状の構造となり、1~12か月,最大でなんと9年もの間生存することができます。このときの代謝速度はなんと1万分の1にもなるそう。

しかし、周囲の水分がゆっくりと蒸発しなければクマムシは乾眠状態に移行できずに死んでしまいます。

クマムシを乾眠状態にさせるには、ろ紙や寒天の上で30分以上かけて自然乾燥させなければなりません。ただ、クマムシの名誉のために補足すると、おもに苔などに生息しているクマムシが乾眠状態に移行できないほどの厳しい乾燥に晒されることはあまりないでしょう。


A Tardigrade flickr photo by peter.v.b shared with no copyright restrictions usingCreative Commons Public Domain Mark (PDM)

エピネシス・コラムズ
・クマムシの生息域は幅広く、身近な苔類や土壌だけでなく、南極や深海からもみつかります。
・その起源は海とされており、一部のクマムシは乾燥耐性を獲得して陸上進出を果たしたと考えられています。しかし、陸上に生息するクマムシも体に水分をまとわなければ呼吸できません。

放射線耐性

クマムシといえば高い放射線耐性もその特徴の一つです。これは乾燥への耐性を獲得する際に得た副次的な能力で、実は乾眠状態よりも通常状態の方がむしろ放射線耐性が高いのだそう。

57万レントゲンという、人の致死線量を遥かに超える放射線に曝されても生存していたことは有名な話です。

しかし、全てのクマムシが57万レントゲンもの放射線量に耐久できるということではありません。

実験に使用されたクマムシはおよそ700匹で、生存が確認されたのはおよそ3匹。実験に使用された約99.5%のクマムシは死んでしまいました。

また、生存したクマムシについてもその”余生”が健康に過ごせたかどうかは定かではありません。実際に、放射線照射された個体の卵は孵化しなかったことが報告されています。

しかし、そのことを考慮しても57万レントゲンもの放射線量を浴びて生存できることは驚くべきことでしょう。

クマムシは120年生きる?

そして、クマムシにはとある伝説的な噂がまことしやかに囁かれています。それは「120年前の標本に水分を与えたら再び動き出した」というもの。

しかし、この逸話は120年前の標本に水を与えて12日目に1匹のクマムシの肢が僅かに伸び縮みしたという記録に基づいた話であり、蘇生したことを示すものではありません。

押すと潰れて死んでしまうし、ひっくり返って起き上がれないと餌を取れずに餓死してしまうクマムシ。本当に最強生物なのかどうかは分かりませんが、ずんぐりむっくりとしてぎこちない、マニアにとってその愛らしさはまさしく”世界最強”でしょう。