難解で奇妙な手稿「ヴォイニッチ手稿」とは?


Mysteriöse Symbole auf der Rudolfskrone – Das Geheimnis der Krone flickr photo by GMF-Productions shared under a Creative Commons (BY-ND) license

1912年に発見された有名な奇書「ヴォイニッチ手稿」。約240ページからなるこの手稿の解読に多くの学者や専門家が挑んできたが,誰一人として解読の糸口さえ見いだせていない。この「世界中の誰一人として読むことができない書物」は現在,最新科学によって解析が進められている。

ヴォイニッチ手稿は1912年,イタリアのモンドラゴーネ寺院において,ポーランド系アメリカ人の収集家ウィルフリッド・ヴォイニッチが発見した。ヴォイニッチ手稿という名前は彼に由来するものである。

彼自身,この手稿の経緯や内容の解読に奮闘した。ヴォイニッチ手稿添付されていた書簡からはローマ皇帝であるルドルフ2世がこの手稿を購入し,所有していたことが明らかとなったが他の手がかりを見つけることはできず,発見から18年後にあえなくこの世を去った。以降,数々の人の手に渡り現在ではイェール大学付属のバイネキ稀覯本・手稿図書館に所蔵されている。

手稿は豊富な挿絵と膨大な文章からなるが,挿絵は植物や裸婦のようなものが描かれており,それだけで内容を推測することはできない。文章はもっと難解で,一定の文字で構成された単語がある程度の規則性をもって出現しており,文法のある何らかの意味をもった文章であると考えられる一方で,単語の反復が非常に多いことなど他の言語に類似でない特徴がいくつか見出されている。

現在では何らかの意味ある文章である可能性が高いということが最新の統計による研究から示唆されている。現代から400年以上も前にここまで言語学的整合性の高い架空の文章を作り上げることは難しいと思われているからだ。

しかし,一部では暗号作成を熟知した者が作り上げた精緻な作品であるとする主張もある。同様のものは,イタリアの芸術家であるルイジ・セラフィーニが2年半かけて制作したコデックス・セラフィニアヌスという架空の言語からなる異世界の百科事典がある。この本も同様に,奇妙な挿絵と解読不能な言語からなり,ヴォイニッチ手稿がモデルとなっているのかもしれない。出版から数十年もの間,多くの言語学者がこの解読に挑んだがコデックスで使用されている言語には全く意味が無いことを著者であるセラフィーニ自身が明らかにしている。しかしながら,言語学者達がそれを意味ある文章であるか判別することができなかったのはヴォイニッチ手稿に通じるものがある。


Voynich Manuscript Folio 53 flickr photo by MindtoEye shared under a Creative Commons (BY) license

緻密に構成された架空の言語は,実在する言語の特徴を備えつつも,やはり不完全な要素が残るものだ。こうした要素が言語学者を困惑させて解読を阻む一方で,言語学的な整合性が絶妙なカモフラージュとして作用しているのかもしれない。

2011年,アリゾナ大学は手稿に使われていた羊皮紙の放射性炭素による年代測定を実施した。その結果,この羊皮紙は1404~1438年に作られたことが明らかとなったが,ヴォイニッチ手稿が実際にこの羊皮紙に書かれたのはずっと後になるかもしれない。ヴォイニッチ手稿が書かれた年代を知るためにはインクに含まれる炭素から年代測定を行うことが理想的だが,技術的に困難であるという。

ヴォイニッチ手稿の発見から100年。難解かつ奇妙なその手稿は人類におけるあらゆる知識・技術の試金石として我々の前に立ちふさがっているのだ。