工業の影響で蛾の色が暗くなる「工業暗化」とは?

2016年3月2日


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19世紀終わり頃、ある種の蛾に突然変異によって通常の個体より暗い色の「暗色型」と呼ばれる個体が存在している事が既に知られていた。イギリスのマンチェスターでの1848年の調査結果によると、通常の淡色型と呼ばれる個体の割合が99%に対して暗色型の個体はわずか1%程度で実に100匹に1匹程度の割合でしか存在しなかった。

ところが、ヨーロッパやアメリカなどの一部の地域で暗色型の個体数の割合が増加する現象が見られ、1848年から50年経った1898年の調査では淡色型の個体は1%にまで減少し、暗色型の個体が99%となり逆転した。この現象は多くの昆虫学者達が気付いていたものの、なぜこのような現象が起きるのか原因は不明であった。

学者や専門家が頭を抱える中、イギリスの昆虫学者ジェームズ・タットは1896年にある仮説を発表した。都市の工業化が進み、大気中に大量に放出された煤煙によって樹木が枯れたり、表皮が黒く暗色化した。今までは蛾の淡色型の個体は樹木表皮の苔の色と同化できていたが,黒く暗色化した樹木の表皮に淡色型が止まると鳥などに捕食される確率は高くなる。

しかし、暗色型の蛾は逆に黒くなった樹木や枯れた樹皮の色にうまく同化する事ができ、これにより明るい色の淡色型よりも生存に有利となり暗色型の蛾が増加したのではないか、というものだ。

(上)flickr photo shared by gailhampshire under a Creative Commons ( BY ) license 

(下)flickr photo shared by Bennyboymothman under a Creative Commons ( BY ) license オオシモフリエダシャク(Biston betularia)。

上が淡色型で下が暗色型。顕著な違いが確認できる。この仮説は現代までに数々の実験や観察からも証明され、現在では「工業暗化」(または工業黒化)という現象で知られており、工業地帯の環境の改善に伴って暗色型の蛾の割合は減少して淡色型が増えてきているという。人間がもたらしたこのような環境変化でも生物はその環境に適応して生き残る仕組みを持っているのだ。

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